朦朧日記

眇めに語る些事の重箱

みそべらは招く

母の小宇宙、台所。 機能的でも洗練されてもいない。 うっかり繊細な一面を見せながら おおむね鷹揚で、いささか野放図な秩序を持つ。 時に微妙な均衡で、厨としての機構を 維持し存在する。 あ、木蓋、落っこちそう。 傍らには白い扉の冷ややかな パンドラ…

片隅に瓶詰

コルク栓を詰めているのは 知らない間に瓶底に埃がたまるのが嫌だから。 座布団のようなものを どうしても敷いてしまうのは 昭和の女の習性だから。

世界が俺様

デジタルカメラを初めて使ったとき 絞りやシャッタースピードなんかを変えると 写りかたが変わるのが面白くて、素朴に感動した。 レンズに虫眼鏡を当てると、ぐいっと近寄れて 画面のまわりがぼやけて流れるのに魅了された。 ふだん台所で使っているガラスボ…

ありしひの

すこやかなりしすゐぎんとう ともれるさまのわれはしらぬを

水銀灯の放心

悟りの境地ってこんな感じかもしれない。 以前、田中泯がどこかの河原で舞踏している映像を見たことがあった。 漬け物の重しのような角のとれた石を胸の上にのせて横たわっている。 その石に心臓の鼓動が伝わり、波打つように動いていた。

泳いでいかない

巨体の二頭をしばらく見ていた。 眩んできたので家に入った。 長いこと、よそ見してても まだ、いた。 絞った股引きを竿にかけたり 湿った長袖を全部並べて てんでに揺れる隙間を直したり 油断してても、いた。 身体が冷えた。 あとから投網が投げられた。 …

わたくしの素敵な

お父様から万年筆を賜った。 家にいると、ほぼへべれけで家族に絡むので 普段は心のごく浅いところでクソ親父と思っているが 質問したことに鮮やかに答えてくれたり さらりと文房具をくれることがある。 そういう時はお父様になる。 昔、お父様の誕生日にこ…

とっておきの

箪笥の飾り金具。 真鍮の薄板を刳りぬいてある。 栞として使えなくもない。 このチューブの口は浜辺のお土産。 なんだか乳首みたい。 かたく巻かれた落とし文の内側に 何が入っているか知っているから ほどいたことはない。 すぐに好奇心を満たしてしまう子…

下を向いて歩く

遺跡が発掘調査された後、畑になったその畝の表面に こんな石の剥片が混ざっていて拾い集めた。 石器時代とか縄文時代とかそんな大昔の人が残した手わざの跡だ。 並べてみると静かなリズム。 道端でこんな感じのかけらを拾うことがある。 自動車の部品じゃな…

人間の眼じゃない

花びらって透けるんだねえ。 カメラの眼にはこんなふうに映ることもできる。 この薔薇は3週間くらい生きてた。 葉っぱは猫にかじられた。

ひかり

明け方まで起きてたついでに初日の出。 竹薮ごしの空が橙色に染まりはじめた。 カメラの焦点を合わすと肉眼で見ている色味が消えてしまうので ぼうっとしたまま記念撮影。 蜜柑色からこがね色に世界が照らされていく。 光が斑にかさなって、キボーってこんな…