くんくん、どきどき
若いころ住んでた家の近所に美大があったので、
ごみ捨て場から樟の木っ端を拾ってきて、ちいさく切り分けて使った。
とくに目的はないが手の形を削り出してみたら、意外に首尾よくできたので
次もうまく行くかな、その次はどうかな、と試すようにいくつも作った。
削る感触がおもしろかったし、木屑がこんもり増えるのが張りあいになった。
削るとメンソレータムみたいな匂いがした。
油をすりこんで仕上げると、揮発していっそう匂った。
ごみ捨て場で木っ端を拾うとき、少し削って嗅いでみて匂いを頼りに集めた。
材を折らぬように、指を分離したり爪を彫りこんだり
探るように削るのが、何というか、スリルアンドサスペンス。
きゅうっと、どこかへ吸い込まれるような、その心境はいわく言い難い。
たまった木屑が虫よけになるかと思ったが、そんなことなかった。