常夜灯じゃないけどさ
昔々、わたくしの子が宇宙の塵ですらなかったころ
テレビ番組で、硯職人は鑿を逆手にもって
肩に当て石を削る、ということを知った。
硬い石を割らぬように、刃物を傷めぬように、そのように削る。
ほう、と思った。
美術大学生だった友人が、木目が素敵な常夜灯を作っていて、憧れた。
特別な道具はいらない、身近にある道具の大きいものから小さいものへ
その都度、自分の力の限界が来たら変えていくのだという。
とにかく、欲しい形に、にじり寄るのだという。
ほほう、と思った。
美術大学のゴミ捨て場で、木っ端を拾ってきた。
彫刻科の学生が捨てたものなら
細かく彫るのに適した材料を使っているはずだ。
小ぶりの鑿と枝切り鋸が家にあった。
中学校のときに買ってもらった彫刻刀セットもある。
安全に気をつけて、にじり寄った。
そのことが今も、わたくしを支えている。