朦朧日記

眇めに語る些事の重箱

あかるくて内緒

シェードにした紙ラッパに直接電球が触れないように、 針金を捻じって作った輪っかやそのほかの工夫が 実際には模様みたいな影になっているのだけれど、 いろんな都合でカメラの眼には映らない。

ひっそりめらめら

涼し気というか繊細な風情というか、気に入ったので拾ってきた。 よく見たら、優美な曲線のさきは情念のようにがっちり巻き付いて、そのまま心中。「にごり江」など連想した。 草木のあいだにも人知れず演歌な展開があったのだなあ。 などとてくてく歩いて郵…

あの子には負けたくない

ほんとは薄緑で気泡がいっぱい入って ちょっとだけ歪んだフォルムのがよかったのだけど わたくしが見つけられたのはこの子だけで それならば、とことん美人に撮ってやる。

なかったことになんかできない

机に据えた電灯が壊れてしまった。自分では直せないようだ。 15年以上は使っているが、好きな形だったので 同じものを探したら、あった。ネット通販で手配して安心。 腕の部分は工作用にとっておいて、傘も何かに使えないかしら。 いじってたら、傘からソケ…

あとはタイミング

一念発起したのが夕暮れ時で、 渾身の力を込めて生地を練り、発酵させている間 やる気の種火を消さぬよう、何時ぞや 招かれたお宅にてごちそうになった アボカドとクリームチーズを混ぜたものを我が家でも、と 入念にかき混ぜて焼きたてに向けて待機。 ソー…

秘密が行方不明

昔々、わたくしの子は無口な子供であったが、たまに喋った。 両のげんこつを合わせてから花が開くように指を広げ、 腕ごとこちらに向け突き出して、得意げに 「じじぼ」と言って、ひゃらひゃら笑いながら、あっち行ってしまった。 「じじぼって、何?」聞い…

乙女のちから瘤

小さいこしゃこしゃしたものは、いずれこんなかたちになっていく。 うっとり陽に溶けて、果物しか口にしたことのない架空のお嬢さん、 擬人化したらそんな雰囲気。斯くあれかしと願われながら 炙られ叩かれ鍛えられ、ざらざらした鋼で擦られて、作られる。 …

タイム麻疹

かつては、おおむねしょんぼりしていたが 苦手なことがいつの間にか 意外に平気になっていたり 発想すらしなかったことをやっていたり、けっこう上機嫌だよ。 若かった自分に大丈夫だからって言ってやりたいが、 うっすら憧れていたことさえ何ひとつ到達しな…

料理はドラマだ

たとえば主人公(ハンバーグ)の人生は さまざまな出来事、経験(挽肉や玉葱その他の野菜、パン粉や香辛料)が 練り合わされ、そっと寄り添う恋人(目玉焼き)や 脇を固める助っ人的な面々(つけあわせ)とともに ナイスなソース(好運、チャンス)で素敵な…

昔々あるところに

暗い森に小径が続いて、その先の藪を抜けたら 湖がありました。 わたくしが子供のころ、キャラメルのおまけに 淡い色彩の絵に謎詩をそえたカードが入っていて 集めたかったが、キャラメルあまり好きじゃなくて 二枚くらいしか持っていなくて 今でも持ち物の…

アン・ナバンというらしい

何かを抱えるように 腕を輪にするバレエの構えに似ていると思えば 老眼鏡にも優雅なところがあるのだ、と 自らを宥める。

小舟に揺られて

小さい、こしゃこしゃ したものが どんぶらこ、ながされてゆきますよ。 などと、ひとりで「昔々あるところに劇場」を展開しつつ お風呂でちゃぷちゃぷ、も捨てがたい。 とは言えこれは 黒いところに黒いものを置いて撮ってみる実験なのだ。

おひさしぶりね

出先で知人に遭遇した折 「瘦せたんじゃない?」と聞かれたが 思いあたるふしがないので 「老けたのよ」と答えた。

奇跡に近似値

むしょうにチョココロネが食べたかった。 暑くてかなわないので日が暮れたら買いに行こうと思っていたら、 家にいるはずの母がおもてから帰ってきた。 「おやつ買ってきたわよ」 本人はメンチカツだった。

夢のようだわ

とかなんとか言いながら目が覚めた。 花咲く崖から駆け出すようにとびだして シャツの裾から風を入れて落下傘を操るように 野原に着地したのだ。

雑に新鮮

草花の鉢を買ってきては枯らすのが習いな母が、 活けておいたのをその場でちぎって食卓へ供するというのに 漠然と憧れたらしい。 二週間ほど前、鶏肉をソテーしたのに乗っかってたのが初舞台で 以来、盤上に出番はまだない。 なじみのない食材なので扱いにと…

ちょっぴり寂しい

ナッツや干しぶどうが入ったチョコレートのほうが好きなのだが これしか、うちになかった。 買いに出るのも億劫な日曜日のゆうがた。

西日タイム

地域の文化祭的な催事に参加した。 こつこつ作りためた小さな装身具を展示した。 会場は公民館の一室を借りた。 赤頭巾のお婆さんちみたいなファンタジックな建物だが ここは会議室なのだそうだ。 天井には実務的な白色蛍光灯が下がっていた。 母屋とふたつ…

猫の事情

気温は高くはないが蒸す室内の熱のこもりそうな場所で まるくなってるところを写真に撮っていたら、 おととい起きた個人的な事柄について 印象の淡い濃淡を思い出しかけたけどすぐ放した、みたいに見えた。 猫はだいたい、まじめ顔していて考えていることが…

ななとい茶房

住んでいる地域がこの世のすべてのような日常を送っているので、 どこか、幽趣ただよう喫茶店にでもふらりと立ち寄り 変わった気分にひたりたいものだと、頻繁に思う。 「思うだけ」の頻度はさて置き 隣町に行くにしろ、バスと電車を乗り継がねばならない。 …

溺れる桃

昔々幼かった子を水泳教室に通わせていたっけ と、ふと思い出した。 六年ほど毎週いやがらず通ったが、あんまり上達しなかった。

誰もいない日曜日

うたたねしてたら、置いてかれた。 籠の中のごつごつした柑橘 が妙に遠い。

残念な美人

むくんだせいか、指から外すとき派手に吹っ飛んでいった。 玉に瑕とはいうけれど、まあ、いいか、と思うことにした。 玉、というほど値の張る石ではないが 方解石という石灰岩の仲間、親戚は大理石という やんごとないようなそうでもないような、お方である。…

ちいさいものはみなかわいい

小粋なコーヒーの店に連れて行ってもらった。 さまざまなコーヒーを試飲できる。 豆を買ったらサービスで一杯、淹れてくれた。 ままごとの道具みたいでかわいい。

ありがちな疑惑

直立するものの、軸がかしいでいるので スピーカーのこまかい振動で 気づかぬうちに回転している、ということに気がつくまえに 悪霊?と一瞬よぎった。

物陰から見守る

さつまいもに気をよくしての蔕栽培。 精霊をしょうりょうと発音したのを 目に見えるかたちにしたとき 「たとえば」のひとつが、こんなふうかもしれないと思った。

のびよ芋づる

さつまいもの端を欠いたのを皿にのせ 少し水を差して放っておいたら、こんなに伸びた。 みんな向こうむいて、ぱりっと立っている。 ちいさいけれど、とてもうれしいことが昨日あった。

ギラギラ迫る

好きなかたちは身近に置いて眺めたい。 買ったり拾ったり貰ったり、 その時々の感慨や派生する記憶をたぐっては放す。 わたくしの母も、こけしや細かな人形や旅の思い出を 細い木枠で囲いガラスをはめたケースに、ぎっしり飾っている。 ひとつひとつは懐かし…

おでかけの味

直径30cmを四分割、二つ折りで齧る。 ところどころのアンチョビが喉の奥が痛いほど塩辛く トマトソースの甘酸っぱさが際立って、山あり谷ありのお食事。 それと、活火山のようにおしゃべり。 よそゆきのお水もごくごく飲んだ。 満足。 おでかけしたのは…

あっち側は夏

日ざしの強いなかを歩きまわって体調を崩した。 明かるいところにいると、目の奥が痛む。 こんな時は日陰の家でもまんざらじゃない。